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音楽、映画、社会など

レイヴ・カルチャーとは何だったのか、そして何か。

この記事はMark Fisherの考察に由来することをことわっておく。

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近頃、RAVEをコンセプトにしたパーティーが増加傾向にあると肌で感じる。昨年にwwwβで開催された"FREE RAVE"では多くの若者が勝手に集まり、勝手に踊るという文字通りRAVEの光景が広がっていた。熱気の立ち込める暗く霞んだ室内を見ると年齢層は20代が多いようだ。ここで不思議に思うのが私も含め、彼らは80年代後半から90年代におけるレイヴ・カルチャーの世代ではないのにも関わらず、21世紀に入った今日でもその時代の音楽で踊っているのだ。ウェアハウスパーティーや野外でのレイヴを体験したことはないが、90年代のレイヴ・カルチャーに取り憑かれ、レイヴの亡霊に熱望する。

これは実在しないままに作用するという憑在論(ジャッ ク・デリダの『マルクスの亡霊』原著, 1993/2007a:37に登場する用語)として捉えることができるとMark Fisherは述べている。「存在でもないが、かといって不在でもない、死んでいるのでもないが、かといって生きているでもない」。このように、体験したこもないレイヴ・カルチャーに現代の若者が亡霊的に取り憑かれ熱狂する。

uncannyzine.com

レイヴ・カルチャーとは何なのか

80年代後半から90年代にかけてUKで生まれたアンダーグラウンド・ムーブメント。

1988年から顕在化し、勝手に場所を占拠し、誰かの音楽で、その音楽の力で勝手に集まり、勝手に踊る。空間と時間を共有し、能動的聴衆による能動的消費が特徴付けられる。音楽的嗜好が似通った者たちが一回性の中で踊り明かすことは非日常的であり、ポジティブに記憶される。1989年、「セカンド・サマー・オブ・ラブ」という現象がUKを席巻する。(ファーストは60年代末にアメリカ西海岸におけるヒッピーカルチャー)もともとヨーロッパの大陸側の諸都市ではトラベラー(トレーラーやキャンピングカーでのノマド的生活)やアナルコテクノ・パンク(アナキストでインダストリアルやテクノ、パンクを好む集団)の土壌があったので、急速にレイブ・カルチャーは発展した。

UKレイヴカルチャーに移民文化が合流したことでジャングルが生まれる。ディスコの延長で生まれたハウスよりレゲエの影響が強く、ベースも大きく、ハウスが流れる場所よりもラフな場所で流れていた。ジャングルはシンプルにハードコアとも呼ばれていた。UKにおけるジャングル=ハードコアは、ガラージや2ステップ、ダブステップ、さらにはグライムに進展する。この一連をサイモン・レイノルズはハードコア連続体という言葉で表現している。

1980年代後半、サッチャー政権・サッチャリズムによるUK国内の格差の拡大と共に社会不安が広がった時代に生まれたこのアンダーグラウンド・ムーブメントは、若者たちの集合的なドロップアウトとなる。衛星放送の開始、国営産業の民営化など、技術革新と新自由主義下で個人が強化された時期と重なる。つまり、社会の閉塞状態が加速した時期の産物である。レイヴァーたちはその閉塞状態の外側にある自由を求めた。イギリス政府はこのムーブメントを食い止めるために軍隊を派遣し、法律まで変えている。90年代に起こったブリットポップ(60年代)のリバイバルは政治的に考えると、レイヴ・カルチャー崩しという意図があった。実際に、ブリットポップは97年にトニー・ブレア政権が打ち出した国家ブランド戦略=クール・ブリタニアに取り込まれ、次々と大手メディアなどから契約や出資を得てより大きな商業的発表機会を持つようになった。90年代後半に入るとアンダーグラウンドなクラブカルチャーは商業化され、かつての雰囲気を失っていった。かつてレイヴが祝祭されながらも、いまや見放されてしまった空間の中を歩きつつ、その空間自体も人々から遠のいていく様子をBurialは作品にしている。Burialの「Burial」はハードコア連続体の終焉を意味し、レイヴ世代へのレクイエムである。

Burial by Burial on Spotify | Burial by Burial on Apple Music

 

昨年、イギリス国内における違法レイヴが増加傾向にあるという記事をSky Newsが出していた。この結果は、今のEUの動きを見ればこれは必然なのかもしれない。昔のように閉塞状態にある若者が外側の自由を求め、過ぎ去ったレイブの幽霊を見ているのだろうか。

ポスト・レイヴ

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ロシアのレイヴ

 ポスト・インターネットに入り、すべてが記録される中でレイブの在り方も変化してきました。ロシアの都市、サンクトペテルブルクとモスクワではレイヴのリバイバルの台頭である。この動きにはファッションデザイナーのGosha Rubchinskiyが大きく関わる。ソ連崩壊後の厳しい状況や若者の暗い固定観念を逆転させて反映したパーティー「𝓐𝓷𝓰𝓮𝓵𝔀𝓪𝓿e」では、明るさや光をコンセプトにしており遊びに来る観客も白を基調としたファッションが目立つ。ここでは、主に実験的なトランスが流れ、モスクワのローカルなDJをはじめ、Lorenzo SenniやAir Max'97、Sega Bodega、Torus、Coucou Chloeなどの国際的なアーティストをも招聘している。Angelwaveの音楽とスタイルは、世界的なインターネットの動向と90年代の文化に深く根差しているが、地元では「Skotoboinya(ロシア語「Slaughterhouse」)」や「W17chøu7」など、モスクワで人気のアンダーグラウンドパーティーへの対抗として見られる。

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「W17chøu7」では「𝓐𝓷𝓰𝓮𝓵𝔀𝓪𝓿e」の反対で、黒や暗闇をコンセプトにしており、観客も黒いスポーツウェアで身を固める。W17chøu7(「魔女の家」パーティー)は、#ghostghetto、#darksea、#gravewaveのようなハッシュタグを付けた投稿でオンラインに記録される。ロシアではこうしたアンダーグラウンドシーン同士が競争することで、さらに先鋭的なシーンが絶えず生まれているのかもしれない。

Angelwaveのシーンは未来的な物語とポストインターネットのアートから深く引き出されている。中でも「ミレニアムの精神」を重要な影響力として掲げている。昨年、Gosha Rubchinskiyの2018 S/Sのショーでは、ベルリンの壁崩壊直後の90年代初頭のレイヴのスタイルとエネルギーに敬意を表している。

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ウクライナのレイヴ CXEMA

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Slava Lepsheevが始めたウクライナの首都キエフでのテクノパーティー「Cxema」。 Cxemaは、差し迫った戦争、反革命、そして経済危機の中生まれた。ソ連崩壊後、ウクライナはかつてのドイツのように経済をめぐる東西の温度差がある。ロシアに接し、親露派住民が多いウクライナ東部には、国内経済を牽引する工業地帯が集中。一方、西部は東部に比べて立ち遅れているため、EUとの統合を求める声が強く、東西分裂の危険性もはらむ。欧米各国は国家分裂を回避させようと躍起になっている。キエフEU統合を望む人々が多い北西部に位置している。「アイデンティティーの西部と経済力の東部」という図式が今も維持されている中、CxemaはDIY的にレイブを行い若者のエネルギーが集積されている。90年代イギリスのレイヴカルチャーの状況と似ているが、Cxemaは反ファシズムフェミニズムを掲げる。また、音楽も実験的であり、90年代のレイブよりはるかに未来的なサウンドだ。

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CXEMA and Rave Parties in Ukraine: Poor But Cool – Political Critique

 

カルチャーの焼き直し ディスクロニア (dyschronia)  

Simon Reynolds -  Retromania (2011)

音楽からファッションにいたるノスタルジー産業、リバイバルブーム。00年代以降の文化状況は過去に停滞・回帰することで未来がキャンセルされている。全てがメディアに記録されることにより、文化的な時間の直線状態が乱れ崩壊している。つまり、前進の感覚がないことを意味する。決定的に新しいものがないために、過去の文化やメディアの焼き直し、再構成が「古い」と感じさせないままに受け手に享受される。レトロなものが、すでに慣れ親しんだ満足感を最小限の変化の中で、手取り早く保証してくれるので、すでに成功したものに似た文化的な生産物が生み出されていく傾向にある。多くの音楽が模倣や反復に閉じ込められる中、テクノロジーの変化を下駄にして新しいものを生産していく層もある。Eco Grimeや実験的なトランスなどの型に当てはまらないエクスペリメンタルな音楽はそのいい例かもしれない。ローカルとローカルがぶつかるグローバルの中で、またかつてのハードコア連続体のような流れが生まれることを期待する。

 

参考/引用:

https://i-d.vice.com/en_uk/article/ne95xg/angelwave-is-the-euphoric-future-of-rave-in-post-soviet-moscow

http://politicalcritique.org/cee/ukraine/2017/cxema-and-rave-parties-in-ukraine-the-poor-but-cool-youth-culture/

Mark Fisher - Ghosts of My Life: Writings on Depression, Hauntology and Lost Futures (2014) = わが人生の幽霊たち - うつ病、憑在論、失われた未来